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育児書を一冊

小児科医として最近気になることがあります。どうも育児中の家庭に肝心の育児書が存在していないようなのです。乳児健診や外来で病気などの説明をするときに一回の口頭だけではなかなか一から十まで理解しきれないのは皆同じです。それで時々冒頭に「育児書にも書いてありますが」などと説明し、お母さんに暗におうちに帰って育児書に目を通して確認することを促すようにお話しすると「育児書はありません」と言うお返事が返ってきます。「お母さん、おうちには何があるの?」と尋ねると「育児雑誌」だったり、「なにもない」だったり。今はインターネットで調べる手段もありますから紙の媒体を置く必要がないのかも知れません。
 
10年ほど前にオーソドックスなサイズ(広辞苑を一回り小型にしたくらい)の育児書の作成に携わりました。その時の編集は「字は多くなくイラストを多くしてビジュアルに訴えてとにかく読みやすく」をコンセプトにしていました。出来上がりをみるとページの半分はイラストで親しみやすいものでした。そこそこは売れていたようですが再販の話を聞くこともなくいつの間に本屋さんの店頭からも姿を消しています。最近はムックや新書サイズのカラフルな育児本が多いようです。しかしそれすらも購入していない育児中のお母さんは少なくないようです。

育児書は分厚いですが辞書と同じで必要なところを目次や索引から引き出して読めばいいのです。発育・発達で疑問に思った時、病気の原因やそのケアがわからない時にひくとわかりやすく書いてあって便利です。
インターネットも便利ですがその情報ソースの責任の所在がはっきりしていないものもあります。その点、本は出版社、編集者、監修者の名前が書かれておりその内容には責任を持っています。育児雑誌はその時々の特集があり全てを網羅しているのではないため必ずしもタイムリーに疑問に答えてくれる記事が掲載されているとは限りません。
系統立てて書かれた育児書を家庭に一冊用意していただきたいと願っています。出産のお祝いにかわいいお洋服もいいですが、長く使ってもらえることからも育児書は素敵なプレゼントだと思います。当院で祖父母世代を対象にしている「グラン子育て教室」でも私はお祝いに育児書をどうぞと申し上げています。

では本屋さんの実用書コーナーにいくとたくさんの育児書や育児本が並んでどれにしようか迷われる方もいらっしゃると思います。いくつかの育児書や育児本に関わった身でこのようなことを言うと出版者の方に怒られそうですが、どれも大同小異で大差ありません。装丁、値段、文字やイラストのレイアウトで気に入ったものを選んでいただくのでいいでしょう。

もしどうしても推薦の一冊をと言われると私は迷うことなく故松田道雄先生の「育児の百科」を挙げます。この本は改訂を重ね最後の改定で「定本 育児の百科」となりました。現在は3巻の文庫本として出版されています。

新米の小児科医は病気について親御さんに説明できても診療の合間に「夜泣きが」とか、「指しゃぶりが」などの育児についての質問をされるのが苦手です。小児科医は小児の病気や発育・発達について学んできますが、育児については学問として学んでいないですし、正解がひとつではなく、あるようなないような場合すらあります。私も小児科医になりたての頃は育児の質問が恐怖でした。その時に「育児の百科」を先輩から紹介され虎の巻として愛読していました。この本は松田道雄先生の一貫した考えの上に書かれていると感じております。この本に発熱の夜間診療について書いてあります。「発熱で夜中にみてくれる医者はめったにいない。つれていくとすれば救急病院である。深夜の救急病院の仕事は重労働だから老練の小児科医が待っているとは思えない。小児科に熟達していない医者のすることはきまっている。熱があれば解熱剤を飲ませ、抗生剤を使う。子どもの深夜の発熱ほとんどはウイルスによるかぜであるから、ほとんど全部が不必要な治療といえる。」30年近く前に書かれたものとは思えないくらい変わらない今の医療状況です。病気のことなど現在と合わない点もありますが、子どもをどのように育てていくかの大きな柱になる本です。

いずれにしても、子育て中の家庭に一冊育児書をお願いします。